亡霊は、鎮魂歌を唄わない―仁祖反正《インジョパンジョン》異聞―

作者 神蔵眞吹

[歴史]

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「俺は、王位が欲しいわけじゃない」

 時は万暦《マンリョク》四十二(一六一四)年、光海君《クァンヘグン》治世下の朝鮮。
 先年、謀反の旗印に担ぎ上げられた廉で、王弟の身分を剥奪され、江華島《カンファド》へ流刑となっていた永昌大君《ヨンチャンテグン》こと李㼁《イ・ウィ》は、流刑先の家に火を掛けられ、焼き殺される。
 彼の暗殺は伏せられ、表向きには病死として、都へは報せがもたらされた。

 それから七年後。
 八歳以前の記憶を失った美貌の少年・恁時雅《イム・シア》は、父・恁希吉《イム・フィギル》と共に、朝鮮八道を転々とする生活を送っていた。
 自分がどうして記憶を失ったのか、なぜ世間から身を隠し、性別を偽って旅を続けねばならないのか、まったく分からないまま。
 そんなある日、父と共にある事件に巻き込まれたシアは、炎に囲まれたことを切っ掛けに記憶を取り戻す。
 炎を放った者たちとの戦いで、養父と分かったフィギルが命を落としてしまい、悲嘆に暮れたシアは、すべてを知るべく都を目指すが――?

 意思とは無関係に王位継承争いに巻き込まれ、殺され掛けた少年の、超長編・報復アクション時代劇、開幕!

※本作は、李氏朝鮮王朝時代の史実を元にしたフィクションです。
実在の人物、地名その他が登場しますが、一切関わりはありません。
※一通り史実をさらっておりますが、妄想・脚色が最優先です。
※〔〕内は注釈です。
※コバルトの旧ロマン大賞(2014年度募集)へ応募した作品を元に、大幅改稿・執筆していた作品(2015~2020年執筆・未完/E星にて公開中)を、更に改稿した作品です。
※個人サイト、なろう、E星にも掲載しています。
※登場人物欄は、先の展開のネタバレを含む場合があります。そうならないよう注意して加筆修正もしていく予定ですが、ネタバレが苦手な方はご注意下さい。

©️神蔵 眞吹2020-.
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この小説の著作権は神蔵(旧・和倉)眞吹に帰属いたします。許可なく無断転載、使用、販売する事を禁止します。
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目次

連載中 全47話

2023年01月01日 17:17 更新

  1. 序幕 烽火《のろし》2022年12月05日
  2. 第一部 記憶

  3. 第一幕 森の中、闇商売2022年05月05日
  4. 第二幕 炎と記憶2022年05月06日
  5. 第三幕 問答と激闘2022年05月07日
  6. 第四幕 喪失2022年05月09日
  7. 第五幕 混沌2022年05月09日
  8. 第六幕 累卵《るいらん》の休息2022年05月10日
  9. 第七幕 対峙2022年05月11日
  10. 第八幕 探り2022年05月12日
  11. 第九幕 銀華楼《ウヌァル》2022年05月14日
  12. 第十幕 間諜2022年05月15日
  13. 第十一幕 急襲2022年05月16日
  14. 第十二幕 家族の消息2022年05月19日
  15. 第十三幕 思惑2022年05月18日
  16. 第十四幕 七庶獄事《チルソオクサ》2022年05月19日
  17. 第十五幕 帰郷前夜2022年05月20日
  18. 第二部 慶運宮《キョンウングン》、炎上

  19. 第十六幕 平行談義2022年05月21日
  20. 第十七幕 董《トン》商団2022年05月22日
  21. 第十八幕 変則的商談【前編】2022年05月24日
  22. 第十九幕 変則的商談【後編】2022年05月25日
  23. 第二十幕 玉聲館《オクソングァン》2022年05月26日
  24. 第二十一幕 思い掛けない再会2022年05月27日
  25. 第二十二幕 革新の欠片2022年05月28日
  26. 第二十三幕 砦の仕合《しあい》2022年05月29日
  27. 第二十四幕 策戦《さくせん》への誘《いざな》い2022年06月04日
  28. 第二十五幕 安山《アンサン》での邂逅2022年06月05日
  29. 第二十六幕 姉たちの理由2022年06月06日
  30. 第二十七幕 決行前夜2022年06月08日
  31. 第二十八幕 仮初《かりそ》めの帰還【前編】2022年06月09日
  32. 第二十九幕 仮初《かりそ》めの帰還【後編】2022年06月10日
  33. 第三十幕 再炎2022年06月11日
  34. 第三部 明国からの波紋

  35. 第三十一幕 長き一夜2022年06月12日
  36. 第三十二幕 彼女への尋問2022年06月13日
  37. 第三十三幕 彼女の事情2022年06月15日
  38. 第三十四幕 刹那的協定2022年06月16日
  39. 第三十五幕 急転【前編】2022年06月17日
  40. 第三十六幕 急転【後編】2022年06月18日
  41. 第三十七幕 測り合い2022年06月20日
  42. 第三十八幕 背水の談2022年06月21日
  43. 第三十九幕 臨時的遁走2022年06月22日
  44. 第四十幕 理由2022年06月24日
  45. 第四十一幕 一夜明けて、山小屋の中2022年11月13日
  46. 第四十二幕 急報2022年12月05日
  47. 第四十三幕 真偽2022年12月11日
  48. 第四十四幕 交渉2022年12月20日
  49. 第四十五幕 潜入2022年12月28日
  50. 第四部

  51. 第四十六幕 明国因縁始末2023年01月01日

登場人物

恁 時雅《イム・シア》(15)


主人公。本名・李 㼁《イ・ウィ》。身長・(現時点で)158cm、体重・45kg。

現国王の異母弟であり、先代王・唯一の嫡男。廃位されているが、王子名は永昌大君《ヨンチャンテグン》。

謀反の旗印にされたという罪状で、王族としての身分を剥奪され、七歳で江華島《カンファド》へ流刑となった。

八歳の時、焼き殺され掛けたショックで髪の色は白銀になり、記憶も一時失っていた。

周囲の目を誤魔化す為、少女として生活している。

幼少期から父(と思っていた)韓 希吉《ハン・フィギル》に厳しい訓練を受けており、すぐにも体探人《チェタミン》〔国境諜報員〕として活動できるくらいの技術と戦闘能力を持つ。


基本的に正義感が強く、少々捻くれているが優しい性格。困っている人や不正を見ると、何だかんだ言っても放ってはおかない。

ただ、養父を亡くしてからは、周囲の親しい人を失うことに敏感になってしまい、自分一人でできると思ったことは他人を頼らず抱え込むようになってしまった(但し、この点本人無自覚)。

朱 徽娟《ヂュ・フェイジュェン》(17)


郭《グゥォ》商団の団員・杜 緋煉《ドゥ・フェイリェン》としてシアと出会い、のちに慶運宮《キョンウングン》内人《ネイン》・郭 月華《クァク・ウォルファ》として再会した。


その素性は、明国先帝・泰昌帝《タイチャンディ》と、正妃・郭 娜琅《グゥォ・ナーラン》唯一の嫡女であり第一皇女。皇女名は、懐淑《ファイシュ》公主《ゴンジュ》。

先々帝・万暦帝《ワンリーディ》の孫で、現皇帝・天啓帝《チィェンチーディ》は異母弟。

母に似て美貌の少女。


父・泰昌帝は祖父・万暦帝にあまり愛されていなかった。

祖父にとって父は、気まぐれに手を着けた女に偶然できた子で、それがたまたま第一子(第一皇子)となってしまったらしい。

祖父は、自身が寵愛する側室・鄭《ヂォン》皇貴妃《ファングゥイフェイ》の子、つまりフェイジュェンには叔父を皇太子にしたがっていた。だが、現・太皇太后、フェイジュェンの曾祖母に押し切られる形で父を皇太子にせざるを得なかった。

その為か、鄭皇貴妃も我が子を皇太子にすべく、幾度となく父の暗殺を試み、祖父もそれを見て見ぬ振りをするばかりか、公然と鄭皇貴妃を庇う始末で、このままではいつフェイジュェンにも危害が及ぶか分からない。

そう考えた両親は、その時にフェイジュェンを皇宮の外へと逃がした。

表向きには急な病で死んだと偽り市井へ送り出し、棺は空のまま葬られた。

その後、ついに祖父の在位中、母が父に代わって刃に倒れる事態になったが、フェイジュェンは両親共に死に目に会うことはできなかった。


母方の叔父の妻の遠縁の息子として、祖父母の元で成長。

恁 希吉《イム・フィギル》(55)


シアの養父。本名・韓 希吉《ハン・フィギル》。身長・185cm、体重・68kg。

左捕盗庁《チャポドチョン》〔警視庁〕に勤めていた元・捕盗大将《ポドテジャン》。

シアの流刑先である江華島へ、シアの暗殺指令を届けた張本人。

王への忠誠ゆえに一度は朝廷与党・大北派《テブクハ》の長・李 爾瞻《イ・イチョム》に従うが、同じ年頃の子を持つ親としての心が、幼子を殺めることを良しとしなかった。

シアを助けて以後は、彼に忠誠という名の贖罪を誓い、息子(娘?)として育てた。

また、万が一自分が彼の敵方に戻らざるを得なかったり、死んだりした場合を考慮し、あらゆる自衛術その他を伝授。

内容は、ほぼほぼ人間兵器かスパイ並で、ソッコー体探人になれるくらいのことは叩き込んである。

李 廷彪《イ・ヂョンピョ/チョンピョ》(59)


中枢府《チュンチュブ》〔窓際部署〕の軍士《クンサ》〔最下級の武官〕。

身長・190㎝、体重・80kg。

がっしりとした体つきで、輪郭は角張った楕円形。眉はなく、鼻筋は太く、唇も分厚い。瞳は濁り、鼻の上には派手な傷跡がある。

両班社会を憎み、フリーで殺し屋をしていた。幾度かイチョムからの仕事を請け負い、信頼を得た為、今は表向きの身分も得ている。

シアを殺そうとした一人。シアの腹違いの長兄・臨海君《イメグン》は直接手を下し、シアの甥・綾昌君《ヌンチャングン》は、彼を自害へ追い込む圧力を掛けるのに一役買った。


性格は凶暴。

とにかく、王室と両班社会への深い憎悪だけで生きている為、それを破壊することしか考えない。王族や両班をこの手に掛けることができれば最高。

破壊できれば、下々の生活も破壊されてもいいと思っている(というより、そこまで考える余裕はない)。

彼にとって、両班社会と王室の破壊が、母と姉の敵討ちであり、彼女らへの供養。

長所/よく言えば一途。一つのことだけを考え、目標に向けて邁進できる。

短所/頑固で執念深い。自分は正しいと思い込んでおり、間違ったことをした王室と両班社会への謝罪を常に求めてやまない(要は、対話の拒否)。

李 爾瞻《イ・イチョム》(61)


朝廷の与党・大北派《テブクハ》の長。身長・170㎝、体重・68㎏。 

世子《セジャ》〔皇太子〕時代に出会い、見出した現国王・李 琿《イ・ホン》に、心からの忠誠を誓う。

また、その忠心ゆえに、手を汚すことをまったく厭わない。

どのような手段であれ、ホンの王座を守ることが、この国を守ると堅く信じている。

洪 端鳳《ホン・ソボン》(49)


身長・175㎝、体重・65㎏。

普段は、柳 輝世《ユ・フィセ》という偽名を名乗っている。最終職歴・同副承旨《トンブスンジ》。暗行御吏《アメンオサ》同様の職務のある觀察使《クァンチャルサ》の経歴の持ち主。

その為、情報網は蜘蛛の巣状。


万暦40(1612)年に勃発した、金 直哉《キム・ジクチェ》の獄事《オクサ》に巻き込まれる。

宣祖《ソンジョ》の第六王子・順和君《スヌァグン》の養子である晋陵君《チンヌングン》が推戴の責を問われ、順和君の妻の父だった黄 赫《ファン・ヒョク》も連座。

順和君の妻とソボンの妻は姉妹だったため、義理の兄弟としてソボンも連座で罷免される。この時、ひどい拷問も受けている。

子どもたちが幼かったこともあり、一度本貫《ポングァン》〔本籍地〕の南陽《ナミャン》へ戻る。

政敵を片付ける為の無実の罪のでっち上げには、それまでもあまりいい印象を持っていなかったが、このことで自分がその被害に遭い、朝廷への不信感を持つようになる。


万暦42(1614)年2月、イ・ウィ死去の報を受け、急いで江華島へ。だが、王子の死体が見つからなかったという情報を知り、密かに真相を探り始める。

ウィの追跡を続ける内、同じようにイ・ジョンピョがウィを捜していると知った為、何とか先にウィの生死を確認し、生きているのなら保護しなくてはと考えるようになる。

数年経った頃、違う反正《パンジョン》勢力から誘いを受けるが、ウィが生きているなら彼以外を推戴するわけにはいかないという持論から、返事を保留にしていた。

解 蒼淑《ヘ・チャンスク》(42)


身長・157㎝、体重・47㎏。

偽名として、陳 美宙《チン・ミジュ》を名乗る。シアが宣川《ソンチョン》の妓楼・銀華楼《ウヌァル》で、婢《ピ》として働いていた頃の同僚で知り合い。

七つ上のソボンとは幼馴染みで、初恋の相手だった。

訓錬院《フルリョヌォン》の武官として勤務していた父の影響で、父の勤務先へ気軽に出入りしたり、剣術の真似事をするような男勝りな少女に育つ。お陰で、女ながらに武術達者。


万暦40(1612)年、キム・ジクチェの獄事に義父・尹 安善《ユン・アンソン》が連座。夫・尹 東解《ユン・ドンへ》(当時・36)と息子・東影《トンヨン》(当時・9)が巻き込まれ、刑死。自身は、金 闓《キム・ゲ》宅へ私婢《サビ》として下げ渡される。

三年後、キム・ゲ宅の私奴《サノ》に犯されそうになり、叩きのめして逃亡する(上へ訴えたところで、私奴婢《サノビ》同士の諍いに関知してくれないのは分かり切っていたから)。

紆余曲折を経て、銀華楼へ流れ着いてから、四年後に再会を果たしたソボンから、反正の拠点となる妓楼の行首《ヘンス》になって欲しいと打診を受けていた。

董 邦植《トン・バンシク/パンシク》(61)


董商団の行首。身長・185㎝、体重・70㎏。

商団の商品の中に情報も含まれる為、かなりの情報通。

情報を売る相手は基本的に問わないが、渡す情報は選んでいるらしい。

妻が、シアが巻き込まれた人身売買事件の主犯・呂商団前行首の庶子。

チャンスクが都にいる間親しくしていた一人で、互いに父娘と言ってもいい関係。

眞 錫炯《チン・ソッキョン》(19)


身長・183㎝、体重・70㎏。

董商団の一員。チャンスクとも親しく、フィギルの娘とも知り合いらしい。

割と素直な性格で、良くも悪くも嘘が吐けないタイプ。

李 倧《イ・ヂョン/チョン》(26)


王族名・綾陽君《ヌンヤングン》。字《あざな》は天胤《チョニュン》。

身長・165㎝、体重・57㎏。

先代王・宣祖《ソンジョ》の三男・定遠君《チョンウォングン》の長男で、シアには甥に当たる。

宣祖が、孫であるチョンを可愛がっていた関係上、チョンは長いこと王宮に住んでおり、宣祖の後妻であるシアの母とも旧知で、自然シアや、シアの姉とも親しくしていた。


申 景禧《シン・ギョンフィ》の獄事《オクサ》のでっち上げクーデター事件で推戴されたとされた末弟・綾昌君《ヌンチャングン》(享年16)を自殺に追い込まれ、大北派と、彼らを暴走するままにしておく無力な伯父王を憎んでいる。

政敵を排除しなければその座を守れず、座を守る為なら肉親を殺されるのを是とする気弱な王を引きずり下ろさなければと固く決意している。


妻は遺教七臣《ユギョチルシン》の一人・韓 浚謙《ハン・ヂュンギョム/チュンギョム》の四女・韓 孩修《ハン・ヘス》(27)。

二人いる息子たちは、妻共々、上の弟・綾原君《ヌンウォングン》の元へ預けてある。

崔 鳴吉《チェ・ミョンギル》(35)


現在、綾陽君の片腕として反正を主導する一人。

身長・160㎝、体重・50㎏。


万暦42(1614)年陰暦1月、兵曹佐郎《ピョンジョチャラン》の職にあったが、明国使節が外部の人と接触できないように命じられたのに、正月使節の家奴《カノ》が道を出歩いて問題が起きた。

これを防げなかった廉で、ミョンギルは官職を剥奪され、都から追放される。というのは表向きの理由で、実のところは使臣に廃母論《ペモロン》を漏らしたことが問題だった。

その前に色々あった為、疑われて針の筵に座る生活には辟易していたので、言い掛かり的な処罰には憤慨したが、清々したのも確かだった。

この年の2月、(表向き)永昌大君が死去したことを、風の便りに聞く。

ここまでの流れを見て、王や大北派にとって都合がよすぎる展開が続いている、とは思っていたが、どうこうしようとも思わなかった。

この年末に母親が死去。

翌年、申 景禧《シン・ギョンフィ》の獄事が勃発、綾昌君が殺害される。

綾昌君の噂も聞いていたので、「ああ、また一人、王と大北派にとっての邪魔者が消えたんだな」と思ったが、少し前に、父親が先年亡くなった母を追うように亡くなり、両親を亡くしたばかりだったのでぼんやりしていた。


反正への参加を決めたのは、万暦47(1620)年になってから。

義父(妻の父親)が體察使《チェチャルサ》だった頃、彼の従事官《チョンサグァン》になっていた申 景愼《シン・ギョンジン》(=シン・ギョンフィの獄事で亡くなったキョンフィの従兄)に、声を掛けられる。

長年のモヤモヤを晴らすいい機会と思い、妻に一応話してから参加を承諾。


今のポジションとしては反正勢力のブレインだが、割と器用で何でもできる。

現政権に不満を持つ者の繋ぎ役も請け負っている。

李 時白《イ・シベク》(40)


現在、中枢府《チュンチュブ》の軍士《クンサ》として勤務している。

身長・178㎝、体重・67㎏。


万暦44(1616)年、父・李 貴《イ・グィ》(59)が肅川府使《スクチョンブサ》在職中、収監中である海州牧使《ヘジュモクサ》・崔 沂《チェ・ギ》の謀逆事件に関わり、無実の罪だったキに面会したことを弾劾され、伊川《イチョン》に流刑となる。

これに伴い、まだ右捕盗庁《ウポドチョン》の譏校《キギョ》〔巡査部長~警部相当〕をしていたシベクは、中枢府へ異動を余儀なくされる。

友人の張 維《チャン・ユ》やミョンギルが不当に朝廷を逐われたこともあり、改めて現在の朝廷に理不尽なものを感じたのが、反正参加の動機。

張 維《チャン・ユ》(33)


身長・170㎝、体重・65㎏。

イ・シベク、チェ・ミョンギルとは幼馴染み(というか、ほとんど親戚か兄弟のノリ)。

壬辰倭乱時、二人と一緒に、シベクの父が運営する訓練施設へ入り浸り、一緒になって鍛錬していた。


万暦37(1609)年、文科に乙科及第。湖堂《ホダン》に入り、のちに芸文館《イェムングァン》、承政院《スンジョンウォン》などに勤める。

翌年には、兼説書《キョムソルソ》〔世子侍講院《セジャシガンウォン》の正七品《チョンチルプム》官職〕を経て檢閲《コミョル》、注書《チュソ》などを歴任した。


万暦40(1612)年、キム・ヂクチェの獄事で妹婿・黄 裳《ファン・サン》(黄 赫《ファン・ヒョク》の孫)が逆賊として逮捕された為、親類という理由で罷免。

故郷・安山へ転居、母と暮らし、隠居状態で読書と執筆に専念することとなる。


万暦42(1614)年、ミョンギルが罷免されてからは、彼のいる加平と安山を行き来するようになる。この頃、金 自點《キム・ヂャジョム》がミョンギルの元へ朝廷への不満などを愚痴りに来ていたので、自然ユも付き合うようになった。

万暦47(1620)年、ミョンギルから反正計画を聞き、少し迷ったものの、兄同然のミョンギルからの誘いやシベクからも説得されたので、朝廷の筋が通るようにしたいと思い、計画に加わった。

金 自點《キム・ヂャジョム/チャジョム》(33)


身長・165㎝、体重・60㎏。


万暦42(1614)年、文科を経ずに、門閥と学徳によって登用、蔭補《ウムボ》〔縁故採用。要するにコネ〕で兵曹佐郎となったが、万暦46(1618)年、廃母論《ペモロン》に反対し、大北派によって朝廷を逐われる。

この不満から、反正に加わった。


現在、拠点の一つを管理している。

李 明稀《イ・ミョンフィ》(34)


王女名・貞淑《チョンスク》翁主《オンジュ》。

先代王・宣祖の側室、仁嬪《インビン》・金純敬《キム・スンギョン》の娘で、シアの腹違いの姉。

身長・155㎝、体重・52㎏。


13歳の時、申 翊聖《シン・イクソン》(当時12歳)に降嫁。

舅は遺教七臣《ユギョチルシン》の一人、申 欽《シン・フム》。


夫に従い、廃母論《ペモロン》反対、延いては異母弟のウィ(=シア)の処罰にも批判的。

ちなみにイクソンは、「正しいことをして罰せられるなら本望」と廃母論を論ずる場である庭請《チョンジョン》参加要請を断固として拒否した。

その処罰は、異母兄・光海君の口添えで免ぜられている。


かつて、申 景禧《シン・ギョンフィ》の獄事の際、流刑になった甥・綾昌君を、彼が自害するまで幾度か慰問していることからも明らかなように、彼女自身もまた正義感は強く、正しいと思えば身の危険は省みない。

自身の子どもたちにも同様の教育をしており、万が一巻き込んだらすまないが予め常々覚悟をしておくよう、子どもたちには言い聞かせている。

綾昌君の遺書を、彼の面倒を見ていた奴婢の少年に託され、のちに綾昌君の養母に渡している。

李 春映《イ・チュニョン》(26)


王女名・貞正《チョンジョン》翁主。

母は、先代王・宣祖の側室、貞嬪《チョンビン》・洪 多實《ホン・ダシル/タシル》。

シアには腹違いの姉。

身長・158㎝、体重・40㎏。


異母姉・李 春玉《イ・チュノク》の夫である洪 友敬《ホン・ウギョン》は母方の従兄。ウギョンの父親が母の兄。

夫・柳 頔《ユ・ヂョク/チョク》と共に廃母論には反対し、夫婦共々流刑寸前だったが、皮肉にもその直前に夫が不慮の死を遂げた為に、チュニョン自身は流刑を免れる。

そのショックから子を早産してすぐ失い、夫のあとを追おうとするが、生母に止められる。現在は夫の実家のある安山の寺院で住職尼として暮らしており、甥・綾陽君の率いる反正軍の後方支援を担っている。

葉 男憲《ヨプ・ナモン》(27)


大北派の末端。

父親が大北派の重鎮・葉銅憲《ヨプ・ドンホン》で、その恩恵にあずかる形で様々な弾劾を免れている。

出仕も蔭補で、中枢府に籍を置いている。


弾劾は、主に女性問題。

朝廷きっての遊び人と揶揄されており、女性と見れば口説かずにいられない。しかも、必ず落とせると信じており、「私が愛しているのだから、相手も私を愛している」とまで豪語している。

実際、顔はよく、口も上手いのでタチが悪い。

少し強引にでも抱けば、女性は皆こちらを向いてくれる、と思い込んでいる。ある意味で前向き。

女性を口説く以上、いざという時女性を守れなければ格好悪い、と変なところだけ男気があり、武術の修練には余念がない。よって、科挙に合格する頭はないが、武術の腕だけなら捕盗庁か内禁衛《ネグムィ》〔国王の親衛隊〕に就職してもおかしくないだけの腕を持つ。

身ごもった女性は全員、都の郊外に買った邸宅で面倒を見ている。そこだけ王宮の後宮状態。


父親→イチョムへの嘆願により、イチョムについて遠接使《ウォンチョプサ》として宣川入りしていた時、偶然シアと出会い一目惚れ。もう自分の妻(の一人)にした気でいる。

ヨプ家の末っ子で、兄が三人いるため、こんな体たらくでも家庭内であまりうるさく言われずに済んでいるらしい。

金 惟乃《キム・ユノ》(37)


先代王・宣祖の継妃《ケビ》〔初代王妃が王の存命中に亡くなった場合、二番目以降に迎えた正妃〕。しかし今その座は剥奪され、宣祖の側室・西宮《ソグン》として慶運宮《キョンウングン》に幽閉されている。

18歳の時に50歳の宣祖に嫁ぎ、19歳で貞明《チョンミョン》公主《コンジュ》を、20歳で次女を、22歳で宣祖唯一の嫡男であるシアを産んだ。

次女は生後すぐに亡くなっているが、それが外的要因が原因であることをユノは知らない。


側室への降格の際、十の罪を犯したと儒生には訴えられた。

李 瑞蘭《イ・ソラン》(18)


王女名・貞明公主。今は母が宣祖の側室に降格されているが、ソランは庶人《ソイン》〔平民〕にまで落とされ、公式には、今は王女ですらない。

シアには、同母の姉。


母と共に幽閉され、日夜命を狙われる生活。

時たま顔を見せてくれる異母姉・貞淑翁主や、異母妹・貞和《チョンファ》翁主、異母弟・寧城君《ヨンソングン》の訪問だけが気持ち和む時間。

母を元気づける為、手習いに力を入れている。

李 㻑《イ・ギェ/キェ》(14)


王子名・寧城君《ヨンソングン》。

先王・宣祖の側室の一人である、温嬪《オンビン》・韓己允《ハン・ギユン/キユン》の息子。

ソラン・シア(=ウィ)姉弟とは腹違いのきょうだいで、シアにはただ一人下の弟(九ヶ月違い)。


ソラン・ウィ姉弟と仲は良かったので、突然その兄が姿を消し、姉が無実の罪で降格されたのが納得行かない。その理由を問うことも許されないのが疑問だった。

現在、訓錬院《フルリョヌォン》で知り合ったフィギルの娘・贇緒《ユンソ》の情報網を頼りに、可能な範囲で調査続行中。

李 春蘭《イ・チュルラン》(17)


王女名・貞和《チョンファ》翁主。

生まれ付き耳が不自由な、キェの同母姉。正義感が強く、キェと同じくソランとシアの処罰が納得行かない。


チュニョンとも仲が良く、理知的で頭の回転が速い異母姉に憧れている。

また、ミョンフィの次女で、自身には姪に当たる申 敬康《シン・ギョンガン/キョンガン》(15)とも仲良しの読書仲間。特に事件モノの小説が大好きで、そこも気が合う。感想を言い合って筆談するのが楽しみ。

彼女に引きずられて訓錬院まで行って、弟のキェ共々、武術の訓練を受ける仲間でもある。かなり活発。


耳が不自由なため、人とのやり取りは向かい合って相手の唇を読むか、筆談。

夜は目が悪くなるといって本を読まない為か、夜目は利く。視力を落としたくないし、逆に視力がよければ遠くの人間が言っていることも唇の形で分かるという特技がある。

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小説情報

亡霊は、鎮魂歌を唄わない―仁祖反正《インジョパンジョン》異聞―

神蔵眞吹  mabuki-k_w

執筆状況
連載中
エピソード
47話
種類
一般小説
ジャンル
歴史
タグ
朝鮮王朝, アクション, 若干群像劇, 微恋愛, ハードボイルド風, 中性的美少年, 復讐劇, 家族愛, R15(保険), サスペンス
総文字数
323,657文字
公開日
2022年05月04日 17:22
最終更新日
2023年01月01日 17:17
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