「温もり」海月海星

文字数 754文字

 私は寒いのが苦手だ。今年の冬は例年より暖かいといっても、寒いのは寒い。中々降らなかった雪が、ようやく降りだし、私はその寒さに身を縮めていた。

 放課後の帰り道、私は恋人の優馬と一緒に歩いている。大学受験が迫っているので、会える時間は限られている。田舎町に住んでいるので、デートするには隣町にでなくてはいけないので、最近はあまり一緒には出掛けていない。だから、たとえ寒くても、この時間は私にとって大切なものだ。私は、コートのポケットに手を入れ、寒さに震えながらも、優馬との会話を楽しんだ。

「あれ? 陽菜、手袋は?」

「どこかに、忘れちゃったみたいなの」

 優馬が、私が手袋をしていないことに気づく。寒いのが苦手なくせに、おっちょこちょいの私は、よく手袋を忘れてしまう。

「寒いの苦手なのにね、大丈夫?」

「ポケットに、手入れてるからなんとかね」

 私がそういうと、優馬は少し考えて言う。

「陽菜、手貸して」

 そういって、優馬は私に手を差し出してきた。私は、震えながらもその手をとった。

「こうすれば、暖かいよ」

 優馬はその繋いだ手を、優馬のコートのポケットに入れてくれた。

「ほんとだね……。暖かいね」

 主に心が。

「でしょ? 僕の手は暖かいんだよ」

 本当は感謝しているが、私は少し意地悪になってみる。

「手が冷たい人は、心が優しい人っていうよね。じゃあ、優馬は優しくないんだ」

 全然、そんなことないけどね。

「あーあ。陽菜そんなこと言うんだ。そんなこと言う人にはもう優しくしないよ」

 もちろん、優馬も本気じゃない。目が笑っている。私の冗談に付き合ってくれているだけだ。

 寒い冬も、優馬と一緒なら乗り越えられる。何より、心が暖まるから。優馬のコートのポケットの中で、繋がれた2人の手。私はその手により力をこめて、その気持ちを伝えた。

CHIHIRO_F

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