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超一流原作者・樹林伸先生に聞いた『MANGA オーディション〜樹林伸プロデュース〜』#3 (2021.06.10) 総合

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『MANGA オーディション〜樹林伸プロデュース〜』
2次審査通過者に見るネーム作りのポイント!
重要なのは「見せる」と「詰める」のバランス!?

 

 

樹林伸先生が手がける最新作「ギフテッド(仮)」。若き天才警察官と不思議な能力を持つ男子高校生のバディものミステリーとなる本作は2021年秋頃に「なかよし」で連載開始予定です。

そんな樹林伸先生の最新作を一緒に作り上げていくマンガ家を発掘するオーディションプロジェクト『MANGAオーディション~樹林伸プロデュース~』が現在進行中です。


二次審査結果、三次課題詳細はコチラ
 

1次審査「イラスト審査」では応募総数109作品の中から27作品が通過、そして今回の2次審査「ネーム審査」で11作品が選抜され3次審査進出を決めました。

 

ギフテッド(仮)」1話の冒頭プロットを読み、約15ページのネームと扉を制作するという2次審査「ネーム審査」。ネームとは言わばマンガの設計図。マンガを制作する際にコマ割りや構図といった全体の方向性を決定する重要な作業です。

 

今回は2次審査通過者のネームを見ながら評価したポイントや今後期待していること、そして樹林先生流のネーム作りのポイントを伺いました!

 

 

 

2次審査通過者に見るネーム作りのポイント

 

ー通過者のネームを拝見したのですが、同じストーリー、セリフでもネームによって全く違うマンガに見えるところが本当に驚きでした! ネームはもちろんマンガ制作の奥深さを実感しました。

 

樹林:前回、2次審査「ネーム審査」向けてのアドバイスで本編プロットから読み取った情報を取捨選択することの重要さをお話したのですが、まさにこれですね。取捨選択する情報は人によって変わるので、ここに個性が出るんです。では、早速実際のネームを見ながら良い点や改善すべき点など解説していきましょう!

 

雨宮理真さん

出典元:https://illust.daysneo.com/works/26f44945459e486d08efa516197ba361.html

 

ービルの植え込みに死体が横たわり人だかりができる、冒頭のシーンですね。

 

樹林:通りがかった2人が「ねぇ、自殺かな?」と話すシーン、その様子を見つめるかっこいい横顔、さらにイヤホンを耳から取る仕草...。この短い冒頭のシーンの中で、思わず目が止まる瞬間がいくつもありました。絵も非常にかっこいいですね。

 

そして、若き天才刑事・天草の登場シーンでは彼のキャラクター性がすごく伝わってきて、一緒に作品を作ったらすごく面白いものができるのではないかと感じました。ネームとして完成度が非常に高く、キャラクターの表情も豊かなのでミステリー作品に向いていますね!

 


 

ー表情のバリエーションは前回の第1次審査「イラスト審査」でも重要視されてましたよね。大絶賛のネームですが、次の第3次審査「原稿審査」ではどんな点に期待していますか?

 

樹林:皆さんに言えることですが、第3次審査では1話目を原稿化してもらうので、どこを見せ場にするのかとことん向き合い考えて欲しいですね。プロットと全く同じにするのではなくもっと面白くしてほしいです。

 

ー面白さとは具体的にどのようなことを求めているのでしょうか?

樹林:例えば、シーンの合間にキャラクター同士のユニークなやり取りやギャグがあると良いなと思います。ミステリー作品ならではの緊張感の中に、キャラクターを好きになれるような、クスッと笑える感じのシーンがあると読者を惹きつけます。

 

炉月さん

出典元:https://illust.daysneo.com/works/61af83f8ca3cfc6fb97c0c58583d72c7.html

 

ー次に、こちらは不思議な能力を持つ高校生・九鬼が、逃げようとする犯人を地面に叩きつけるシーンです。先程登場した天草と後にバディになるキャラクターなので、見せ場の一つでもありますよね。

 

樹林:犯人が「どけええっ!」と言いながら走ってくるシーンを下から煽り、九鬼が犯人を背負い投げするシーンが上からのアングルになっているところすごく良かったです! 大胆な構図が描けているのはもちろん、マンガを派手に面白く描こうという気持ちが伝わってきました。

 

 

そして、九鬼はもちろん、各キャラクターの表情もしっかりと描けているし、イラストがはっとするくらいうまいです。キャラクターに大人の色気もあって幻想的なイラスト集を見ているようでした。

 

ー1次審査「イラスト審査」でも、キャラクターから伝わる表情、イラスト全体感から醸し出す空気感、バランスが素晴らしいと仰っていましたよね。反対に改善すべきポイントはありますか?
 

樹林:キャラクターの初登場シーンをもう少し大きく扱ってほしいと思いました。

こちらの天草と九鬼が初めて登場するシーンは一つの「見せ場」です。九鬼の場合はキャラクターの名前が出てきても良いですし、見せ方は色々ありますが、顔と名前を一致させる工夫がほしいです。

 

樹林:あとはコマ割りにもう少し気配りできるといいですね。例えば9ページと10ページの最初のコマ割り(青丸部分)が似た配置になっていますよね。またキャラの顔が入った2コマ(赤丸部分)も両方のページにあります。感情の変化を表すためにあえてやっているのかもしれませんが、あまり表情が変わっていないため効果が感じられません。同じシーンが繰り返されているような印象なので飽きさせない工夫があるともっと良くなると思いました。

 

 

 

樹林先生コメント

 

gomakyouさん

出典元:https://illust.daysneo.com/works/0397f3056e57e3066b0739346e772926.html

 

警察官などのサブキャラクターをうまく描いてとても良かったです! メインキャラクターと犯人だけで物語が進むと読者は退屈してしまうので、そうならないような工夫がされていると感じました。

天草が少し子どもっぽい印象を受けたのでもう少し大人っぽく描いてもいいかもしれませんね。あとは、バシッと決まった大胆な「見せコマ」がより多く欲しいです。

 

 

まぼさん

出典元:https://illust.daysneo.com/works/f5b6eb26b7905875cd5e1efebe56eb70.html

 

天草がウインクしたり、花を背負っていたり...。見せ場を考えてネームを作っていてところがすごく良かったです。特に天草が「どうですか?」って言いながらこちらを見るシーンは、読者が思わず心惹かれてしまうかっこよさがあって素敵ですね。

ネームは本当に素晴らしいのですが、天草と久鬼が似たような雰囲気なので、表情も含めてそれぞれに違うかっこよさと個性をつけてほしいです。

 

三条さん

出典元:https://illust.daysneo.com/works/891497bca3682814845ded4f3658e576.html

 

天草が殺害現場に到着して被害者に手を合わせるシーンがとても良かったです。プロットにないシーンですが、こういう小さな工夫が作品をさらに良いものします。ですが、天草はもう少しチャラさが欲しいですね。天草のキャラクター性が伝わる髪型や仕草の改善を期待します!

また、推理シーンで描かれている、天草を中心にして背景に情報が表示されるという見せ方が「金田一少年事件簿」のような雰囲気を感じとても分かりやすかったです。一方で「見せコマ」が少ないので、もう少しメリハリがあるといいですね。

 

近藤麦さん

出典元:https://illust.daysneo.com/works/10a99b710a5f33835893b318d7d17755.html

 

天草の登場シーンでページをまるまる1枚を使っていて、大胆なコマ割りがとても良かったです。天草のお調子者感が出ている仕草も良いですね! 九鬼の登場シーンもたっぷりとコマを使っていて、余韻もあります。ただ二人とも幼さを感じるので、目のサイズを少し小さくしたり、髪型を変えるなど今よりも年齢高めに描いてほしいですね。大人の女性が見てもかっこいい!と思えるキャラデザを研究して頂きたいです。

 

鵙さん

出典元:https://illust.daysneo.com/works/8118181c5c9d94365a6f5042a00f9ba7.html

 

15ページという厳しい制限の中でページを無駄にしない器用さと巧さを感じました。扉絵は天草の初登場シーンに使い、九鬼の初登場シーンもしっかりとコマを使っていてすごく良いです。

天草の目の白さやが少し気になっていて、悪役っぽい印象を受けたので改善したらもっと良くなると思いました。今女性に人気の絵柄(顔・体格)を研究して「なぜかっこいいのか?」を分析してみると良いと思います。個性も重要ですが、一般化の視点も盛りこむと最強になれると思います。

 

あゆこさん

出典元:https://illust.daysneo.com/works/28f673a9f0006dff1d4cad4a9c311d06.html

 

九鬼が逃げようとする犯人をかわして地面に叩きつけるシーンがすごくかっこ良いですね。天草の性格もよく表現できているし、キャラクターをかっこよく見せる方法をわかっているなと感じました。「証言START」の表現も面白いです。

ただ、キャラクターの個性が少し弱い印象を受けたので第3次審査に向けて改善するともっと良くなると思います。

 

 

U4_amamimanさん

出典元:https://illust.daysneo.com/works/61dcf350e67d6ba4a6ae70db53344995.html
 

天草が「どうですか?」と犯人に問い詰めるシーンが、とてもかっこよくビシッと決まっていて良いですね。ネームも随所に工夫があり、イラストもとても上手です。ただ絵柄が男性向けの印象を受けるので、三次審査では一度女性向けに描かれた絵が見てみたいですね。読者が思わずファンになってしまうようなかっこ良さをプラスできると、更にこの作家さん自身の武器が増えると思います。

 

ヨルさん(飛び入り参加)

出典元:https://illust.daysneo.com/works/3523765093beac81cf4a208be8d52351.html

 

多彩な飛び入り参加枠の中でも目を惹いたのがヨルさんです。イラストが上手なのはもちろん、コマ運びがとてもスムーズで読みやすかったです。男子の絵柄もとてもかっこいいですね。

ただキャラらしさをもう少し出せるといいですね。九鬼も大人しめの印象を受けましたし、天草のお調子者感やお茶目な一面をもっと見たいなと。画面も綺麗だけど少し淡泊に見えるので、アクみたいなのが更に出ると良いと思います。

 

nennneko8さん

出典元:https://illust.daysneo.com/works/921d8f9f47428fd3907a886fc8fc0fb7.html

 

最後に九鬼の顔がアップになって瞳が強調される演出がとても良いです。見せ場を作るのが非常に上手だと感じました。ですが、全体的にキャラクターの幼さが気になりました。特に犯人が気になりました。

また、イラストとセリフが一致していないシーンがあり少し読みづらさを感じました。特に8ページで描かれる犯人の供述シーン。例えば「窓際に座ってボーッと外見てたら」のシーンは犯人の顔が描かれていないから誰がわからないですし「飛び降りちゃったんです」のシーンも飛び降りたイラストではないですよね。吹き出しもコマの中から出しすぎる傾向があり、ごちゃついて見てしまうのも勿体無いです。

今人気のマンガや、自分が読みやすいと感じるマンガを研究して、コマの割り方や吹き出しの配置を研究すると更に良くなると思います。

 

 

 

重要なのは「見せる」と「詰める」のバランス

 

ーみなさんに共通して、目が止まるバシッとした「見せコマ」を更に増やせると良いという話があったと思うのですが、ネーム作りの段階でどういうことを意識したら改善されるのでしょうか? 作業する中でおすすめの方法があったら知りたいです。

 

樹林:まず、プロットを読んだ段階で目立たせるシーンを決めるんです。そして「チビネーム」を作ってみてください。作り方はとても簡単で、B4のネーム用紙を8ページに割って見開きを4つ作ります。そこにコマを割ってキャラクターを配置していくんです。完成したら全体を俯瞰して見せ場や詰める場所を再度調整していきましょう。この工程を挟むことでコマのメリハリもつきます。

 

ー見せ場は思いつくけれど、ページの中に収める作業に苦労する方も多そうですね。今回の2次審査「ネーム審査」で詰め方が上手だなと思ったネームはありますか?

 

樹林:例えばこの、犯人が嘘の供述をするシーンですかね。

 

出典元:三条さん

 

小さいコマの中に、今いる場所とスタバとの距離をうまく表現しています。全体的に犯人の供述シーンを詰めて入れているんですよね。犯人の供述は結果的に嘘なので、このシーンにページを使う必要がないと判断されたのでしょう。すごく良い判断だと思います。ページ数には限りがあるので、プロットから読み取った情報をうまく取捨選択することが大切です。

 

 

 

原稿審査は「めくる」楽しさを意識して

 

―3次審査「原稿審査」では連載第1話目のプロットが明らかになり、通過者のみなさんにはそこから1話全体をネーム化、そして10ページを原稿化していただくんですよね。

原稿作業に入る時に押さえておきたいポイントを教えてください。

 

樹林:大きく分けてポイントが2つあります。1つ目は今回の講評でもお話した「見せコマ」を意識することです。ここぞ!というシーンはページをたくさん使って、大胆なコマ割りで見せてほしいです。

そして、2つ目は「ページをめくる楽しさ」を意識してほしいです。「めくり」というと、ページをめくった後の右上のコマを重要視するように言われることが多いですよね。でも僕が大事だと思っているのはめくる前の「左下のページ」。読者にページをめくらせるためには、その部分にワクワクするような演出を入れる必要があります。

加えて、注意してほしいポイントがあります。これは、読者の目の動きに関係する話なのですが、ページをめくると読者の視線は右ページの一番上にきますが、それと同時にもともと見ていた左ページの上にも視線が残ります。ここにネタバレにつながる情報があると良くないので注意しましょう!

 

ーこの2つのポイントを押さえるために効果的な方法ってありますか?

 

樹林:下書きの段階で原稿を掲載誌と同じサイズに縮小し印刷してみてください。見開きで並べて、全体的なバランスが良いかどうか、次のページをめくりたくなる楽しさがあるかどうか...。自分自身でリアルなサイズ感で読者の視点を体験しながら確認することをおすすめします。

よくネームや下絵から原稿の段階になると「自分で思っていたより上手くいかなかった」という方がいらっしゃるのですが、大半はこの方法で改善されるのでぜひやってみてください!


 

(ライター・ちゃんめい)

 

樹林 伸

漫画原作者・小説家・脚本家。

漫画編集者として『シュート!』・『GTO』などに携わる。

原作者として『金田一少年の事件簿』・『BLOODY MONDAY』・『サイコメトラーEIJI』など大ヒット作を多数手がける。

 

MANGA オーディション〜樹林伸プロデュース〜

優勝者に樹林伸原作の女性向けミステリー漫画の連載を担当してもらうオーディション企画。

「なかよし」・「パルシィ」内で連載&単行本化確約。

 

◆第三次審査 7月25日(日)まで

 

課題:ネーム&原稿審査

 

◆二次審査結果、三次課題詳細はコチラ