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新作書評:ルイーズ・グリュック『野アヤメ』(和訳付き)

「【ブックレビュー】人生は、断片的なものでできている」に新作を追加しました。

2020年度ノーベル文学賞を受賞したルイーズ・グリュックの詩集『野アヤメ』についてです。
残念ながら、2021年5月時点で彼女の詩集の和訳は刊行されていないようです。
代表作『野アヤメ』から、"THE WILD IRIS"(野アヤメ)と"SNOWDROPS"(マツユキソウ)を和訳付きで紹介しました。
上田敏のような素晴らしい訳詩ではないですが、彼女の詩の控えめな美しさが伝わればと思います。
字数が多くなってしまい、紹介を断念した詩を一つ。二番目の"Matins"(明けの祈り)の一部です。

「手の届かない御父よ、私たちが最初に天国から追放されたとき、あなたはレプリカをお作りになった。それはある意味では天国とは違う、課業を教えるために設計されている場所だった。けれどそれを除けば同じだった。両方に美しさが、代わるものがない美しさがあった。ただ私たちは課業が何であるか分からなかった。
放り出されて、私たちは互いに疲れ果ててしまった。暗黒の年月が過ぎた。私たちは交代で庭仕事をした。大地が暗赤色の、あるいは明るい赤色の花びらで霞んだとき、初めて私たちの目に涙があふれた。礼拝することを知っていたあなたのことなど私たちは決して考えなかった」

この詩は、「野アヤメ」で表現していた暗い大地に埋もれた状況(うつ状態)を、楽園から追放されたアダムとイヴの物語になぞらえています。
追放された大地は「天国のレプリカ」であり、美しいが、自分で土を耕さなければならない土地でした。
大地を彩った花びらというのは、創世記の記述から茨とアザミであると考えられます。

ルイーズ・グリュック本人が「野アヤメ」を朗読する映像があるので、ぜひ文字を見ながら聞いてみてください!
https://youtu.be/oRASORxulTs
Louise Gluck reads her poem "The Wild Iris"

2021年 05月02日 (日) 20:58|コメント(0)

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