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活動報告

二つの言葉と終わる世界

鏡に映る自分の顔を憎んだことはあるか。
俺はある。
人は二種類の言葉を使っていると信じていた頃だ。

普通に話す言葉。
雰囲気や状況といった、声に出されない、場の空気に関する言葉。

人は二種類の言葉を使うけど、俺は一種類しか使えない。
それを全力で使うから、理屈っぽくなるしかない。

『どうしてそんなに無神経なの?』
『人の気持ちを考えて!』
でも、俺の気持ちは誰も考えない。
『鳥さえ見てれば満足な変な奴』だそうだから。
言葉が違うからだ。

そのうちに、周囲の人間がだんだん馬鹿に見えてくる。
筋道だった考えよりも一時の感情を振りかざし、振り回される人々。

でも彼らの目は事実を告げてくる。
『足りてないのはお前のほうだ』
と。

俺は程度の低い地獄を旅した。
悪魔も飽き飽きして立ち去ったあとの被造物の墓場のような街。
そんなところにも教会があって――大人になって、俺は今そこにいて、懐には秘密の書状があって――蝋燭をかざし、壁の銅版画を見る。ありきたりな絵で、祭壇には聖典があって開いてみるけど知っていることしか書いてなくて、不意にそのことに耐えられなくなって夜の闇に出ていく。

沖が漁火で明るくて、それは目で、無数の目で、俺は見つめ返して目を閉じて、そうすれば火の本性と魂の領域で二人きりで向き合えるような気がして、でも俺は鏡の中の俺を見る。
『足りてないのはお前のほうだ』

目を開けて理解する。
鏡に映る自分を見つめながら、俺が憎んだのは俺じゃなかったことを。

『俺じゃなく、世界のほうが消えればいい』

これはそんな話だ。

『〈アースフィアの戦記〉月ニ憑カレタ歌語リ』、明日11月24日から連載再開だ。
消えゆく世界で待ってる。

2020年 11月23日 (月) 19:47|コメント(2)

楽しみです!! とても。
ありがとうございます!
アースフィアのみんなも、きっと今頃るるせさんに会えるのを楽しみにしていますよ(*´ω`*)