活動報告
「あんただって同じだろ? ……人を殺したり、裏切ったり、それを命令したりする。でもそこには戦争を終わらせるためだっていう大義がある。だから人を殺しても人間でいられる。そうじゃないのか?」
「私はそんなに繊細じゃないわ。自分の仕事をするだけよ」
(〈アースフィアの戦記〉月ニ憑カレタ歌語リ/二十四章 終末ヲ行脚スル歌)
中間報告。
私リアンセ・ホーリーバーチ中尉は、シルヴェリア第一公女殿下より殺害を仰せつかった十八名のうち十名の抹殺を完了。
先述の協力者ミスリルと共に、十一人目の標的を探す。
……私はリアンセ。陸軍情報部の間諜。
単独行動を基本とし、どんな過酷な任務にも、一人で命を賭けなきゃいけないわ。
他の情報部員とも連絡は取り合うけど、協力はしあわないし、ときに見捨てる。
芋づる式に捕まっては元も子もないもの。
ただ、今回みたいに臨機応変に協力者を得ることもあるわ。
ミスリルは実力もあるし、一緒にいて飽きない面白みもある。
彼と二人で旅をする間、いろいろな話をしたわ。
この戦争の先の世界についてヴィジョンを描き得る者がいるのか。
この惑星に生きる者たちにとって最善のありようとは何か。
人は何者たり得るのか。
何者になろうとしているのか。
それが問題だって。
その「人」というのが個であれ集合体であれ、私に意見を求めたって無駄なことよ。
集合体としての人の行く末なんて私には手に余る問題。個のアイデンティティの問題だとしても、私は私。他の何者かになろうとは思わない。
なにせ、そんな深遠な課題に取り組んでる場合じゃないし。今は自分の仕事で手一杯。
私は陸軍情報部の間諜。
非情であれと教育された。
ミスリルのことも、必要とあれば口封じをする覚悟はできていた……できていた、つもりだった。
一つ誤算があって。
彼に情が移ってしまうなんて、思ってなかったの。
■
今回全ページの公開を終えた24章を以て、本編第3部はおしまい。
今後の更新予定についてだけど、
夏期(7月下旬頃)に外伝作品『使者と死者の迷宮〈アースフィアの戦記外伝〉』を、
秋季に本編『月ニ憑カレタ歌語リ〈アースフィアの戦記〉』を連載再開するみたい。
そうね……
もしもあなたが物好きならば、終わりゆく世界の物語を、どうか見届けてちょうだい。
2020年 05月24日 (日) 18:59|コメント(0)
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