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活動報告

貴様ら、裁きの日が来るぞ

社員食堂のメニューに『あんかけ蟹チャーハン』なるものがあり、私は大層楽しみにしていたのだが、いざ注文してみるとチャーハンに入っていたのはどう見ても蟹ではなくカニカマであった。

私は固まった。
そもそも400円で蟹にありつけると思ったのが間違いだったのだ。蟹の身が入っていなくともせめて蟹エキスくらいは入っていると信じる……いや、信じたい。

食堂で固まりながら私は考えた。むしろなぜ『解る虫』と書いて蟹と読むのだと私は思ったのか?

「思ったもへったくれもないだろう、『解る虫』と書いて蟹と読む。これが表意文字のお約束だ」
という向きもあるだろうが、もう少し話させて欲しい。

表意文字の仕組みからヒントを得て始めた創作が、このサイトで公開している『空と亡国の書』というタイトルだ。今は『アースフィアの戦記』シリーズに集中するため更新を停止しているが、象徴からエネルギーを取り出して魔女と戦うファンタジーである。

エネルギーを取り出すと言っても、現実世界の技術で考えれば「人から無機物へ」は現実的ではない。小説なので派手さを出すため技術ではなく超能力という形にしたのだが、実際にこの技術が開発されたなら、それは「人から人へ」という形のものになるはずだ。

恐らく最初に立ちはだかる難問は、複雑さとエネルギーの関係の問題になるだろう。人間は莫大なエネルギーの塊でありながら、象徴に対する安定したエネルギー供給源たるには変数が多すぎる。
表意文字に置き換えての例になるが、ましてや「解る虫」と書いて「蟹」と読むような二つ以上の意味を持つ象徴の組み合わせで創り出された一つの象徴となると、それは送り手ないし受け手にとって強い意味づけがなされていない限り、さしたる力を持たない。

この問題を手っ取り早く解決したいなら、みんなが同じものを見るようにすればいい。
認知ならびに認知のための身体能力を均一化させ、連想の幅を限定し、安定した作用のために感受性を制限する。
そう、重要な点はあくまで「皆が同じものを見るようになる」ことであり、「同じものを知る」ことではない。有象無象の大衆は、自分たちが何を見たのか知る必要はないということだよ。
そして個性が希薄化した人間は、最終的にこのようなことを意識下で考えるようになる。

『神の座は空位であり、我こそがそこに座すべきである』

少し話は飛ぶが、地獄について考えてみてほしい。
地獄があるとして、君が悪魔ならば、そこに人間をまとめて放り込むか。
私ならばしない。
そんなことをしたら、人間同士で群れてしまうからだ。
人間は、二人もいれば勝手に希望を作り出す。
だから、一人一人、違う地獄に放り込む。
心地よい、そこから出たくない、虚飾された世界――人間の尊厳の一部を構成する大切な記憶を断片化・共有・再統合し、誰でも「なりたい私」になれる世界だ。そこでは現実世界の全てが虚構と化していく。確かに本物とわかるのは、自分の命のみ。

個性を損なわれるというのは、他者と関わる方法を奪われて、このような地獄に一人囚われるのと同じことである。

このとき人間の反応は、ざっくり二派に分かれるのではないか。
自分以外の生命の創造に執心するか、客観時間を捨てて心地よい主観時間のみを孤独に生きるようになるか。

後者の人間が生きる世界に死はない。
死んだ人とはいつでも主観時間の中で会える。
時間がないのだから、生きる苦しみもない(そもそも人生とは、一人で苦しみ続けるには長すぎると思わないかい?)。
客観時間がない世界には、神や宗教は存在しない。それは、好きなものだけで満たされた美しい世界を保つ努力に水を差すものだ。こうして彼は彼の世界で「我こそ神」と思い上がる。

前者の人々は――他者への希求がある限り、何割かの人々は、希薄化した個性と肥大したエゴという生ぬるい地獄に対して抵抗し得るかもしれない。さもなくば淘汰圧を愛するようになる。
淘汰圧の代用品、ストレス、それはあるいは種々のフィクションであるかもしれない。愛するものの中にこそ、自らの救い主がいるのなら、彼らは掴み取るべき栄光のため、フィクションの世界を通じて、見えない誰かと戦うようになる。

それは、架空の王位をめぐる架空の戦争。

どのような形で行われる戦争になるかはわからない。だが思い出してほしい。象徴からエネルギー抽出を行うコードが人間の認知によるものである限り、いかに認知を均一化しようとも、一つの象徴からどのような経緯である種のエネルギーが取り出されたのかを解明するのは困難になることを。
ある一つのありふれたエネルギーが引き起こす連鎖によって何が起きようとも、砂漠の砂ほどの相関性の中から責任の所在を突き止めるのは不可能に等しい。

そのエネルギーは様々な立場にある人間を同時に動かすことで、恐るべき大量死をもたらすこともできる。
つまり人類は滅亡する!!
人 類 は 滅 亡 す る ! ! !

2020年 01月23日 (木) 21:09|コメント(0)

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