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活動報告

拷問者は語る。

「砒素を選んだのは素晴らしい判断だ。慢性砒素中毒は他の病気に偽装しやすく、無味無臭、飲食物に混ぜたらほとんど気付かれない。君のご両親は何の仕事をしていたの?」
「薬屋です」
「それは婉曲な表現だね?」


(〈アースフィアの戦記〉月ニ憑カレタ歌語リ/二十七章 毒害ノ瀰漫(びまん)スル歌)


苦しみを捧げて。
僕はアスター。君のことは知らないけど、君が傷ついていることはわかるよ。そのいじけた目を見れば十分さ。
拷問されたのかい? 殺されそうになったのかい? 僕のような連中に?
君がかわいい女の子なら慰めてあげたところだけど。

軽蔑はしないで。僕は仕事熱心なだけなんだ。
もし不愉快だったなら、お詫びに面白い話をしてあげよう。
僕が最近拷問したある殺し屋が……

よけい不愉快? 最後まで聞いてごらん。

……ある殺し屋が、熱い油に両足を突っ込まれてからこう言ったんだ。
「苦痛は存在しない」って。
まあ詳細を述べはしないけど悲惨な状態になった足を見て、まだそんなことを言うんだ。
「これで足が失われたというのなら、足など最初から存在しなかった」
だったら泣き叫ばないでほしかったんだけど。

その人は、人間は情報処理しかできない生き物だという考えに囚われていてね。

ちょっと想像してほしいんだ。君の前にリンゴがあることを。

その人が言うには、君は(僕たちは)五感と言語でしかリンゴを処理できない。
君はリンゴを百個食べてもリンゴを知っているとは言えない。
君が受け取っているのは、リンゴの色、リンゴの重さ、リンゴの味という情報だけだ。

人は情報を見るが、霊は実体を見る。

認識の空白を埋める方法があれば、すべての情報は実体になる。
そのとき僕たちは、魔法の世界を生きることになるんだって。

面白いでしょう?

『〈アースフィアの戦記〉月ニ憑カレタ歌語リ』は平日昼更新。二十八章は12月14日(月)から始まるよ。

いつでも君を歓迎するよ。かわいい女の子であってもなくてもね。

2020年 12月13日 (日) 22:26|コメント(0)

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