作品数9
総合評価数863
総合PV数1,076,929

作者ブックマーク

活動報告

さまよえる類感

「大なり小なり、宗教的な象徴には意味があります。……天球儀という最大の宗教的象徴の意味を、あなた方聖職者も含めて誰も知らないのであれば、言語生命体の社会は象徴の意味を忘れて規範喪失(アノミー)に陥ったのですか?」


「意味を忘れたというよりは、天球儀等の諸々の象徴が何を意味するはずだったか?
フーケ殿、正しい発問はこうだ。“それら宗教的象徴がそもそも何を意味しているのかを、はじめから、我々は知らなかったのではないか?”」


(〈アースフィアの戦記〉月ニ憑カレタ歌語リ/二十三章 来タリマセ崩壊)


アースフィアの戦記。
これは、人に似た人ではないものの物語。
神になろうとした人間が生み出したものの物語。
創られた命を巡る倫理と尊厳のはざまで加速するものは、憎しみのみなのか。

こんにちは、アエリエ・フーケです。
今日は私たちの惑星アースフィアについて、皆様がまだ知らないお話をします。

文明退化が始まった最初の30年……27億の大陸人口が9億にまで激減した阿鼻叫喚の30年……ありし日の科学力の象徴である天球儀を見上げ、ある人々は言いました。

「今日からは、この惑星を包み込む巨大な構造物、天球儀を我らの神にしよう」

現在のアースフィアの宗教の主流は、“ 天球儀のような偉大な構造物を作り得る地球人を信仰する”という内容のもの。
つまり、天球儀を通じて地球人を神のように崇めているのであって、天球儀そのものを神の座に据えているわけではない、ということですね。

天球儀信仰はアースフィアに存在する異端宗教の最も原始的な形であると同時に、地球人信仰が地球人によって押し付けられたものではなく、あくまで阿鼻叫喚の時代を抜け出す過程で練り込まれたものである可能性があることを示唆しているんです。

いずれにしろ、創造主である地球人の支配を逃れた言語生命体は、結局自らの手で地球人を神の座に据えることになった。

その精神の貧困に打ちのめされたとき。
外宇宙からの侵入者が、私たちの心性を保護する呪術の力の払底をあからしめるとき……

……月のようにあからしめるとき。

世界が、終わります。

皆さまがアースフィアにお越しくださったことを心よりお礼申し上げます。

終わる世界へ、ようこそ。

2020年 05月17日 (日) 21:00|コメント(0)

コメントはありません